星色のフィナーレ:美馬視点

みなさまのひとみ先生の作品のなかで、お気に入りシーンはなんでしょうか? わたしのなかでひとみっこ3大大好きシーンは、 フィナーレで想いが通じ合うシーンと、 セレナーデの「話がある。中に入れてくれ」シーンと (オウムの美馬サマで茶化してしまいましたが!(^_^;)) チェイカーのレオンとユメミのアガペーシーンです。 どのシーンもヒロイン一人称視点ですから、 美馬サマは、レオンは、どう思ってたのかな〜とよく妄想します。 そのひとつを脳内から取り出してみました。 他にも、 美馬サマが雨の中ずぶぬれになって花純ちゃんに出会うところとか、 山中湖で花純ちゃんが事情聴取うけながら美馬サマにちょっとくっつくところとか! マリナちゃんがシャルルに思わずキスしちゃうところとか! 記憶をなくしたユメミがレオンの好きなひとを問いただすとことか! あげればキリがありません!! 美馬サマはこんなに女々しくも鈍くもないわ〜とか、 いろいろ文句もおありでしょうが、まあ、わたしのなかでは、こんなイメージです。 寛大なお心でお読みいただける方のみ、どうぞ。 ***** 「賭けをしよう。 もしオレが負けたら、何でも美馬の言うことを聞くよ。 ……そのかわり花純が来たら、美馬、キミは花純に自分の気持ちを全部、 ひとつ残らず正直に話すんだぜ」 美馬はさっきの凱の言葉を思い出していた。 花純は、来るだろうか。 美馬は物憂げにベッドに起き上がった。 熱があるらしい身体は火照って、夜風が気持ちいい。 裸の肩にガウンをひっかけ、バルコニーに出た。 ―――来るわけがない。 目を閉じると、怒った花純の顔が浮かぶ。 彼女が怒るのも無理はなかった。父も母もいないから、当主替わりだというのはただの口実だ。 高柴を責め、もう花純とは付き合うなと言ったのは、本当は花純を守るのは自分だと そう言えないための腹いせにすぎない。 花純のほんとうの気持ちを聞かされたその夜、彼女は高柴と恋をするという選択をした。 一度きりと約束した身では、黙って見ているしかなかった。 ―――焦げそうなほど、気が狂いそうなほど、後悔しても。 自分と花純とは、気持ちの重さが違うのだと、思い知らされた。 ……ああ、そうか……。 ふと、ひっかかっていたひとつの疑問に対する答えが浮かんだ。 桜川望が必死になって捜している「M」に、なぜそんなにも妬けたのか。 自分のこの狂おしい気持ちと同じくらい、花純に、想われたい。―――そういうことだ。 暗がりのなか、白い人影に気づいて、美馬は目を疑った。 ガウン姿の花純が、近づいて来る。 息をつめて見守っていると、彼女は美馬の棟まできて、ゆっくりと一周した。 何をしているのだろう? 少し考え、灯りがついているか確認しにきたのだと気づき、胸が熱くなった。 「……花、純、ちゃん」 もし……今夜花純が来たら。 そのときは自分の気持ちを全部、ひとつ残らず正直に話すんだぜ。 凱……。 花純も、オレを――― まだ少しは気にかけてくれているのだろうか? ********** 熱のある身体で夜風にあたっていた自分を、花純は怒ってベッドに寝かせ、 メイドを呼んで氷嚢を取り替えてくれた。 「ありがとう」 礼をいうと花純は首を振って、神妙な顔でベッドの脇に置いた椅子に座った。 「……謝りに来たの。さっきはその……言いすぎたわ。あれはただの、八つ当たりだった。 ほんとうにごめんなさい」 緊張に固くなって両手を膝の上で握りしめている花純の気持ちをほぐしたくて、 美馬は急いで言った。 「いや、オレのほうこそ……きつく言い過ぎたよ。ごめん」 そのかすれた声が苦しげに聞こえたのか、花純が眉をひそめてたしなめるように言った。 「大丈夫?風邪ひいてる人は普通、真夜中にベランダなんかに出ないのよ」 「でも、おかげでキミがオレの家を一周するのが見えた」 からかうように言うと、花純がちょっと頬を染めた。 「うれしかった……」 熱のせいかもしれない。いつものように感情を抑えず話すのは、気分がよかった。 美馬は微笑んだ。 約束なんて気にせずに、もっと早く気持ちを打ち明けていれば、結果は違っていたのかもしれない。 嘘に嘘を重ねて、傷ついて、苦しむこともなかったのかもしれない。 全ては格好をつけて、心を隠した自分自身が招いたことなのだ。 もし―――今からでも、間に合うとしたら。 オレは、どんなことでもするだろう。 「今も、うれしい。こうしてそばにいてくれて」 「そんなこと、言わない方がいいわ。桜川望が聞いたら、悲しむもの」 花純の言葉を聞いて、美馬は脣を歪めた。 彼女は自分の嘘を信じている。 ―――桜川望とつきあっているという、花純との距離をおくための嘘。 美馬はためらいもせず、本当のことをうちあけた。 ただ友人として、彼女の好きな男―――誰かもわからない「M」を捜しているのだということを。 「そいつを一生懸命捜してる彼女を見て、すごく妬けた。 なぜだろうってずっと考えてて、さっきやっとわかった。それは……」 「それはね、あなたが彼女を好きだからよ!」 さえぎった花純の口調の強さと、手の甲に落ちた涙に、美馬は驚いて顔を上げた。 慌てて立ち上がった花純の腕をすばやく掴む。 ―――もし、花純がまだ少しでも自分を思ってくれているのなら。 すがるような気持ちで、美馬は強引に花純を自分に向けた。 花純の頬が濡れている。 「あなたは彼女が好きなのよ。だから妬けたんだわ」 言いながら、花純の目からさらに涙が溢れた。 涙―――いったいなぜ。 彼女が高柴を選んだとき、切り捨てられたものとばかり思っていた。 この涙はまだ、このオレに、想いが残っているということではないか。 そう考えるのは、あまりにも都合がよすぎるだろうか。 「……オレはね、誰かにそんなにも夢中になられている男が、羨ましかったんだ。 誰かを愛して、愛されて、そして満たされたい。そんなふうに愛し合える人間の全てに、嫉妬した」 ―――誰かに。 ―――花純、きみに。 ―――愛されたい。 「なぜ、そんなこと言うの?胸が痛くなるほど、あなたを想っている人間だっているわ」 涙に濡れた目で、花純がまっすぐに見つめてくる。 その瞳にははっきりと、美馬への想いが宿っていた。 あの夜、一度だけだと無理矢理言わせた本当の気持ち。それと同じものが、今もまた。 「そんなふうに、オレを見るな」 激情が喉を焦がし、声をかすれさせる。 「理性が飛ぶよ……。めちゃくちゃにしてしまいそうだ。君とオレとの約束を」 もう、約束なんてどうでもいい。 どんなに無様な結果でも、きっと今まで以上に後悔することなんてない。 美馬のなかで、何かがはずれた。 「気が狂いそうなほど、今もキミが好きだ……。忘れられない。キミが欲しい!」 吐き捨てるように言った言葉に、花純は身体を震わせた。 諦めたように一瞬目を閉じ、そして押し出されるように脣を開く。 「愛してる……」 耳を疑った。 あまりにも、信じられなくて。 「美馬だけを、愛してる!前よりずっと、愛してる!!」 たまらず抱きしめると、花純は両腕をあげ、美馬の背中をしっかりと抱いた。 花純を抱いたことは、何度もある。 だが彼女から抱き返されたのは―――これが初めてだった。 「もう離さない!もう二度といやだ!!花純、オレから離れるな!!」 腕の中で、彼女が何度も頷いた。 すがりつく腕に、美馬は抱きしめる腕に力をこめた。 ああ、花純も―――苦しんでいたのだ。 つらかった時間が、焼け付くような想いが、押し流され、音を立てて戻っていった。 今やっと通じ合った想いを、もう二度と離さない。 ―――そう誓った。 Fin. ***** 大好きなフィナーレのいちばん大好きなシーンを、美馬サマはどんなだったのかと 妄想してみました。 ひとつだけ勝手に付け加えたのは、花純ちゃんが謝るところ。 あやまりたい!とか言いつつ、全然謝ってないのが、非常に気になってたもので……。 いやあ、この気持ちの探り合い合戦、いいですね! 何度読み返してもキュンキュンします。 ごはん3杯いけちゃいます!(?) ひとみ先生、素敵なシーンをありがとうございます。 大好きなシーンを頭の中から取り出せて満足です。 さえこでした♪(*^_^*)

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