自白剤には甘いカクテルを<前編>

オリジナル設定にもほどがある内容です。 原作に忠実でないのは百も承知二百も合点なので 原作至上主義の方はどうぞ回れ右して下さいませ。 「もうひとりのきみと過ごした一ヶ月」のお話より以前のお話です。 〜このブログでの、勝手な設定〜 ・美馬サマと花純ちゃんは、結婚しています。 ・花純ちゃんは有名な女優になっていて、普段はパリで暮らしています。 ・美馬サマは、プロテニスプレーヤーになったのち、引退して美馬財閥の跡を継いでいます。 それではどうぞ。 -------------------------------------------------------------------------------- 広いエレベーターホールは、ひっそりと静まりかえっていた。 高層マンションの最上階であるこのフロアには、美馬の部屋しかない。 階下にはワンフロアあたり10以上もの部屋があるというのに。 つきあたりの窓は天井までガラス張りで、パリより数段明るい夜景が広がっている。 フロア中央のテーブルに配された、白でまとめた上品なカラーとカサブランカの巨大なアレンジが、かぐわしい芳香を放っていた。 敷き詰められた絨毯は、優美で細いルブタンのヒールが埋もれるほどに厚い。 花純はため息をついた。 ―――どうしよう。 美馬には内緒でパリからやってきたものの、ここまで来て家に入るのを躊躇していた。 鍵は持っている。結婚しているのだから当たり前だ―――だが、確実に美馬はいない。 地下の駐車場には車がなかった。 美馬と結婚してもうすぐ一年になるが、同居したことはなく、花純にとってここを自分の家だと思うにはまだ違和感があった。 美馬に知られたら、確実に気分を害することだろうが。 やっぱり、近くのホテルのラウンジででも帰りを待とう。 そう決心してエレベーターを待つ。 うつむいたまま、到着したエレベーターに乗り込もうとした花純は―――突然、抱きしめられた。 上質で柔らかいスーツの感触に驚いて顔をあげると、端正な顔が微笑んでいた。 「おかえり」 「美馬っ!?……っ」 抱かれたまま、押し出されるようになかば強引にエレベーターから降りる。顎を掴まれ、仰向かされる。 「なぜ家にいない?……どこに行こうとしてた?」 「え……その……」 うろたえて視線をさまよわせた花純に、美馬の容赦ない視線が降りてくる。上げた右手は大きな手のひらで、そっと包み込まれた。髪に埋もれた片手で頭を固定され、くちづけを受けようとしたそのとき―――。 花純のお腹が、ぐう、と鳴った。 ******* 「どうして誰もいないの?」 いつもいるはずのスタッフが不在なのに気づき、花純が聞いた。 「きみ、着いてから社に電話しただろう?きみは名乗らなかったようだけど、わが優秀なる秘書室長どのが、きみからの電話だと気づいてね。オレにこっそり教えてくれたから、連絡して全員帰ってもらったんだ。早くふたりきりになりたかったからね」 そういってウインクすると、花純が頬を赤らめた。 スーツのジャケットを脱いでキッチンに立った美馬は、バゲットを薄く切って皿に並べた。トマトをサイコロ状に切ってオリーブオイルを垂らしてパンにのせ、岩塩とブラックペッパーをミルで挽く。 白ワインにカシスを注いでキールを手早くつくると、グラスと皿をトレイに乗せ、カウンターに座る花純に差し出した。 「どうぞ、お腹をすかせたお姫様」 「ありがとう……ごめんね、帰ってきたばかりなのに」 遠慮しつつも、食べるようにうながす美馬の視線を受け、ひとくちかじった花純は顔を輝かせた。 「おいしいっ!」 「よかった」 美馬はあらためて黒のソムリエエプロンを腰に巻き、冷蔵庫を物色する。いくつか材料を選び出し、まな板と包丁を出すと、花純が目を丸くした。 「あなたが?料理をするの?」 「簡単なものならね。ああいいよ、きみは座っていて」 あまり酒に強くない花純の頬は、すでにピンクに染まっている。 今度は強めのコスモポリタンでも作ろうか、と美馬は考えた。 突然連絡もなくパリからやってきた花純が、なぜ家の前まできてUターンしようとしたのか。 キッチンに立つ美馬をぼんやり見つめながら、ときおり、刃物で斬りつけられたように、なにやら苦い表情になるのは何故なのか。 こういうとき、正面切って尋ねたところで、花純はまず本当のことを言わない。 ウオッカのビンを取り出し、美馬は目を細めた。 つづく。 -------------------------------------------------------------------------------- わーんすいません、タイムリミットです〜。 つづきは近日中に!(^_^;) 美馬サマ、お誕生日おめでとう! あと8分で日付が変わる〜!! 駆け込みで息の荒い(?)さえこでした。

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